イタリアに住んでいたことがあります。
と、言っても1年ほどですが。
花の都、フィレンツェです。
情緒のある素晴らしい街でした。
イタリア人の男性、即ちイタリアーノは
女性なら誰にでも声をかけると言いますが
ある意味本当です。
目が合うと「べっぴんさん、こんにちは」
てなことを言います。
挨拶がわりに女性を褒める。
というより、それがまさに挨拶です。
「いいお天気ですね」と「今日も美しいですね」
というのは、ほぼ同義語です。
だから、いちいち喜ぶようなこっちゃありません。
「アナタもステキね」と返しておけば済むことです。
ただ、やはりイタリアーノは女性が大好きです。
あわよくば......と考えておられる方がかなり多いみたいです。
ま、そういう気持ちは万国共通かも知れませんが、
イタリアーノはそれが露骨に出ます。
だから、機会があれば口説きます。
とりあえず誘ってみます。
かなり、積極的な殿方が多いようです。
中央市場にタマネギを買いに行く途中。
後ろから車が近づいてきました。
もちろん、昼の日中です。
タマネギを買いに行くだけなので、
たいしてお洒落もしていませんでしたが、
それでも車から声がかかりました。
「チャオ、ベッラ」
例のご挨拶です。
当然のように私もお返事致しました。
「チャオ、ベッロ」
ま、お約束みたいなもんですね。
普通なら二言三言やりとりがあって
それで済むところなのですが、私が愛想良かったからでしょうか。
「どこ行くの? 乗らない?」
と、こう来たワケです。
鬱陶しいので、適当に応えました。
「今からセントラルに用事で行くの」
「そうなの? そこまで載せてあげるよ」
「ううん。実は彼氏とデートだから。
(デートっちゅう格好でもないがなぁ)」
普通ならこれで「なぁんだ、じゃね〜」と
落ち着くはずのところなんですが、
そこがイタリアーノの素晴らしさというか馬鹿らしさというか。
「じゃ、デートの待ち合わせ場所まで送るから!!
ね、いいじゃん。乗って乗って」
いや、いらんし。
そんなことしてもらったら、話ややこしいし。
っていうか、ホントはタマネギ買いにいくだけやし。
かなり、粘り強いというか、脳天気です。
もちろん、乗りませんでした。念のため。
口説き文句もとてもストレートです。
「いたしたい」
以上です。
面食らいます。
まぁ、今じゃ日本でもそれが普通になってきているのかも
知れませんがねぇ。
ここで、怯んではいけません。
傷つけないように、やんわりお断りしなきゃ。
などと、ヌルイことを考えてはいけません。
ちょっとやそっとでめげるようなイタリアーノではありません。
「いたしたくありません」と、キッパリ応えるのです。
それでも彼らはヘコみません。
「そんなハズはない。ボクはこんなにいたしたいのに。
キミがその気でないハズがない」
なんで、そう思えるのかねぇ。
ハッピーな人達です。
あまりに自信を持って言われるので、
一瞬「そうかな?」と思ったりしそうになりますが
これも、いけません。
「うーん」とか考えてもいけません。
ひたすら「いらない」と言うのです。
理屈をつけてもムリですから。
「いらんモンはいらんのじゃ」
と、言い切ることが大切です。
あ、ただし、お断りする場合ですよ。
これだけ、はっきりお断りしても、
別にめげるワケでもなく、負け惜しみのような
捨て科白を吐くでもなく、その後はあっさりしたもんです。
そして、次に会ったときには、また口説いてくださいます。
あまりしつこいのも困りものですが、
ここまで来ると微笑ましいです。
天晴れですね。
イタリアに行かれた女性なら、
誰でも一度や二度は経験なさることだと思います。
これだけ大胆不敵なイタリアーノにも弱点があります。
「マンマ」です。即ち、お母様ですね。
あんまりしつこかったり、悪ふざけが過ぎると
「今度、アナタのマンマにお話聞いてもらわなくちゃ」
と、言ってみましょう。
大抵の場合、怯みます。
そのまま大人しくしています。
マフィアのボスでさえ、マンマには弱いのだと聞きました。
愛すべきラテン気質の男性達。
そして、恐るべきはイタリアのマンマでした。